ライフキャリア・レインボー - Life Career Rainbow –
アメリカの経営学者であるドナルド・E・スーパー(1910~1994)は、生涯をキャリアの研究に捧げたキャリア理論の第一人者です。
スーパーは、社会環境の激しい変化の中で生きる個人のキャリア発達を考えるうえで、「時間」と「役割」という概念を取り入れています。
提唱した理論の中でも有名な「ライフキャリア・レインボー」とは、個人のキャリアは生涯にわたって発達し変化するというものです。それは、キャリアが青年期に選択され、その後変化せずに維持され続けるものではないことを意味しています。そして、キャリアは職業のことだけではなく、家庭や社会などの中で受け持つさまざまな役割(ライフロール)と関連し合いながら形成されるものであると考えています。

冒頭で述べたように、ライフキャリア・レインボーでは「時間と役割」を概念とし取り入れています。簡単に説明するために時間をライフステージ、役割をライフロールとして考えてみましょう。
ここからは、
・宮城まり子先生の著書 2010「キャリアカウンセリング」第16刷 駿河台出版社
・渡辺美枝子先生の著書 2022「新版 キャリアの心理学」第2版第7刷 ナカニシヤ出版
を引用・参考しながら考えていきたいと思います。
ライフステージとは
ライフステージとは、一生を5つの段階に分けて考えています。
①成長段階(0~14歳)
・興味、関心、能力などの探索を行い、職業への関心を寄せる時期
②探索段階(15~24歳)
・色々な仕事を知り、興味関心などにあわせ、特定の仕事に絞り込んでいく時期
③確立段階(25~44歳)
・特定の仕事の定着し、責任を果たし、職業的専門性が高まる時期
④維持段階(45~65歳)
・確立した地位を維持し、さらにスキルを身につけ、その役割と責任を果たす時期
⑤解放段階(65歳以降)
・有給の仕事から離脱し、新たなキャリアライフを始める時期
~宮城まり子著 2010「キャリアカウンセリング」第16刷 駿河台出版社 を参考~
ここでは詳しく触れませんが、それぞれのライフステージにおける発達的課題を達成せず放置したままにすることは、後のステージでの課題達成を困難にすることにつながってしまうようです。
また、スーパーは今後の社会情勢の変化によって、「成長」→「探索」→「確立」を経た後に、新しい職業選択という「探索」を行い、「維持」に達しないことも普通になってくるかもしれないと述べているようです。
ライフロールとは
ライフロールとは、個人が家庭や社会などの中で受け持つさまざまな役割で、人が一生で果たす役割は少なくても6種類あるとされています。
①子供
②学生
③余暇人
④市民
⑤労働者
⑥家庭人
⑦その他(配偶者、親、年金生活者など)
人はこれらの役割を、「家庭、地域、学校、職場」などを舞台として、いくつかを同時に果たしています。そして、その役割に費やす時間とエネルギーは、人それぞれに異なっています。
前述のキャリアライフ・レインボーの図の中の色のついた部分は、ある個人の役割における時間とエネルギーの程度を示した例ですので参考までに眺めてみてください。
役割のバランスが大事
例えば、次のような人を仮定として考えてみましょう。
夫38歳(正社員)、妻35歳(正社員)、子供2人(3歳と1歳)
・妻は育児休業から復帰して働いているが、復帰後の「仕事と育児の両立」のことで悩んでいる。
・夫は少しだけ育児休業は取ったものの、育児にはあまり関われていない。
このようなケースは、今の社会では身近な問題ではないでしょうか。
妻は、働きながら、育児をし、家事をし、地域活動をし、できれば趣味だってしたい・・・など、いくつもの役割をこなしています。悩みが生じてしまう時には、これらの役割のバランスがうまく取れていないことが原因として考えられます。
一人が使える時間とエネルギーは限られています。
自分が置かれたライフステージによって、どの役割に時間とエネルギーをどれだけ注げるのかを検討し、バランスを調整していく必要がありそうです。
ただし、それは一人で解決できることではなく、この例だと、夫、職場の上司や同僚、親、地域の人などの理解と協力を得ることができるかが重要なポイントになるのではと考えられます。
そして、暮らしている場所の文化や風習などといった環境的な影響がかかわっていることも考えられます。
自分とかかわりのあるまわりの人たちに、どのように理解を求めていけるでしょうか。そして、社会的支援の活用も解決のための大切な資源として取り入れていく必要がありそうです。
また、今の悩みがいつまで続くのか、悩みの渦の中にいる時には途方もなく続く苦しみのように感じてしまうかもしれません。メンタルケアも大切にしながら、ライフステージの移行によってこの先の役割の比重が変化していくことを念頭に置き希望を持ちながら、抱えている課題を乗り越えていく方法を探っていきたいところです。
まとめ
少し難しい話になってしまいごめんなさい。
まとめますね。
ライフキャリア・レインボーとは、
①個人のキャリアは生涯にわたって発達し変化する
②キャリアは家庭や社会などのさまざまな役割と関連し合いながら形成される
というものでした。
ライフキャリア・レインボーはキャリア発達についての理論ですが、私たちは様々な役割をこなしながら生きていること、そして一人でできることは限られているため、時には取捨選択したり、優先順位をつけたりしながらバランスを取っていくことが必要になることを表わしているのではないでしょうか。
こういった様々な役割を通してキャリアが形成されていくのであり、決して職業単体でキャリアができているわけではないのだと感じます。
悩んでいる時、自分の置かれているライフステージ(時間と環境)と、自分にあたえられたライフロール(役割)について考えてみると、どうしたらよいのかが見えてくることがあるかもしれませんね。