困難や葛藤を乗り越えた先にあるものは・・・

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ライフサイクル理論

できれば困難や葛藤を避け、悩みなく過ごしていきたいと思っているのは私だけでしょうか?
子育てをしていた時も、自分の子どもには苦労させたくないので、先回りして困難を排除したりしていたこともあったと思います。

しかし、生きていく中で、困難にぶち当たったり、悩んだり、葛藤したりすることは、実はとても大切なことであり、乗り越えたからこそ得られるものがあるということをライフサイクル理論によって知ることができます。


私たちは、誕生して死へ至るという一生のプロセスの中で様々な経験をし、精神的・社会的に変化をしながら生きています。このような人生の成長過程をライフサイクルといいます。

ライフサイクル理論とは、人生の成長過程を8つの段階に分けて捉えた心の発達に関する理論で、心理学者のE.H.エリクソン(1902~1994)が有名です。
人は他者との関係の中で成長していくものだと考えています。

発達課題 心理社会的危機 得られる力

ここから少し難しいお話になります。

エリクソンは各発達段階において「発達課題」vs「心理社会的危機」→「得られる力」という3つの関係性で示しています。
「発達課題」:達成すべき問題
「心理社会的危機」:発達課題に相反し葛藤するもの
「得られる力」:危機を乗り越えることで得られるもの

発達段階発達課題心理社会的危機得られる力
乳児期
0歳~1歳半
信頼不信希望
幼児期前期
1歳半~3歳
自律性恥・疑惑意思
幼児期後期
3歳~6歳
積極性罪悪感目的
学童期
6歳~13歳
勤勉性劣等感自己効力感
青年期
13歳~22歳
アイデンティティの確立役割の混乱忠誠心・帰属感
成人期
22歳~40歳
親密性孤独幸福感・
壮年期
40歳~65歳
世代性停滞世話
老年期
65歳~
自我の統合絶望英知

乳児期 0歳~1歳半 信頼vs不信→希望

乳幼児が親などの重要な他者との関係の中で、欲求が満たされれば他者に対して信頼を得ることができます。
しかし、場合によっては欲求が満たしてもらえないこともあり、その場合には不信に陥ることになります。
信頼(発達課題)と不信(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、不信を乗り越えることができると、乳幼児は希望(得られる力)を得ることになります。

幼児期前期 1歳半~3歳 自律性vs恥・疑惑→意思

幼児期前期の成長の過程として、自分でやってみたいという自律性があります。トイレや食事などがわかりやすいかもしれません。
例えば、おしっこやうんちを自分の意志で我慢したり出したりすることで、自律性を育てることになります。
しかし、失敗を体験すると、「失敗するかも」、「怒られるかも」という恥や疑惑の気持ちを持つことになります。
自律性(発達課題)と恥・疑惑(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、恥・疑惑を乗り越えることができると、幼児は自分の力で欲求をコントロールできるという意思(得られる力)を得ることになります。
恥や疑惑を消化できなかった場合には、決まりを気にしすぎたり、完璧を求めたりといった行動を取りやすくなるようです。

幼児期後期 3歳~6歳 積極性vs罪悪感→目的

幼児期前期での自律性を獲得することで、自分で判断して行動するという積極性が出てきます。
善悪や良否の判断が曖昧ながらも、上手にできたり、成功したりすることで自信を持てるようになり積極性が育まれていきます。
しかし、失敗を体験すると、「失敗するかも」、「怒られるかも」という罪悪感を持つことになります。
積極性(発達課題)と罪悪感(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、罪悪感を乗り越えることができると、幼児は目的(得られる力)をもって行動することを身につけていきます。
罪悪感を消化できなかった場合には、ストレスによる影響を受けやすくなるかもしれません。

学童期 6歳~13歳 勤勉性vs劣等感→自己効力感

小学校に入ると、同年代の友人への関心が広がり、行動の主体が家庭から学校・集団へと変化していきます。集団の中でのルールを守ったり、他者との比較の中で得意不得意を感じながら努力をしたり、積極的に関わることで勤勉性を身につけていきます。
しかし、集団に馴染めなかったり、活躍することができなかったりすると劣等感を抱くことになります。
勤勉性(発達課題)と劣等感(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、劣等感を乗り越えることができると、子どもは「やればできるんだ」という自己効力感(得られる力)をもてるようになります。
自己効力感は困難に負けず挑戦していくための原動力となるもので、よりよく生きていくためにとても大切な力です。

青年期 13歳~22歳 アイデンティティの確立vs役割の混乱→忠誠心・帰属感


第二次性徴の時期で、心身共に様々な変化が生じる時ですが、心理的にはまだ未成熟な段階にあります。
中学校・高校・大学への進学や社会人になるなど、活動範囲が広がり、幅広い人とのかかわりへと変化していきます。
「自分は〇〇の中でどんな存在なんだろう?」、「他人からどう思われているのだろう?」などの疑問や葛藤をもちやすい時期です。
このような「自分は何者なのか?」という概念をアイデンティティ(自我同一性)といいます。

憧れの人物の真似をすることを同一化といいますが、最終的には、同一化していた自分から、オリジナルな自分をつくりだしていかなくてはなりません。
憧れは理想であり、その理想と現実のギャップに葛藤したり、悩んだりしながら、自分の中の価値観と向き合うプロセスを通して「自分らしさ」に気づくことをアイデンティティの確立といいます。
しかし、このアイデンティティの確立を果たせないと、周囲に合わせてばかりになってしまうなど、自分が何者なのかわからないまま悩み続けることになり、役割の混乱を抱くことになります。
アイデンティティの確立(発達課題)と役割の混乱(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、役割の混乱を乗り越えることができると、「この集団にいても大丈夫なんだ」という自分の居場所に対する忠誠心・帰属感(得られる力)を得られるようになります。

成人期 22歳~40歳  親密性vs孤独→幸福感・愛

成人期は、社会人として職場で同僚や仲間と人間関係を築き、友人や恋人との交友を深めていく時期です。結婚して家庭をもち、子育てをする人もいるでしょう。
このような他者との関係性を構築して親密性を育んでいきます。
親密性を高めるためには、お互いの価値観や気持ちをすり合わせることが必要になってきます。
しかし、自分を出せずにいたり、相手に譲ってばかりいると対等な関係性を築けず、孤独を感じてしまうことになります。
親密性(発達課題)と孤独(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、孤独を乗り越えることができると、人は幸福感や愛(得られる力)を感じられるようになります。
孤独を消化できずにいると、表面的な人間関係しか築けなくなってしまう可能性があります。

壮年期 40歳~65歳 世代性vs停滞→世話

壮年期は、体力的にも精神的にも落ち着いている時期です。
次の世代を支えていくものを生み、育て、関心をもつという世代性(エリクソンの新語)がテーマとなる時期です。
自分がこれまで培った知識や経験を、次の世代に伝えていくことによって、自信の成長や活性化にもつながっていきます。
しかし、自分のことばかり考え、次世代への関心が薄い状態で過ごしていると、自身の発展がなくなり停滞を起こしてしまいます。
世代性(発達課題)と停滞(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、停滞を乗り越えることができると、人生をより良くするための世話(得られる力)という力が得られるようになります。
停滞を消化できずにいると、頑固さが抜けなかったり、世話ができず評価が下がったりなど、周囲から必要とされなくなってしまう可能性があります。

老年期 65歳~ 自我の統合vs絶望→英知

人生における最後の段階として、これまでを振り返る重要な時期です。
定年退職をして老後生活がはじまり、肉体的・身体的な衰えなど、様々な機能の低下を感じながら過ごしていくことになります。
機能の低下は避けることができませんが、これまで培ってきた知恵や経験などを活かして、より良く過ごしていくことは可能であると思われます。
自我の統合とは、自分の人生を振り返ったときに「良い人生だった・・・」と確信をもって受け入れられる力のことです。この力は、最終的に訪れるであろう「死」を受け入れることにも大きな影響を与えるものと考えられています。
しかし、死を受け入れることは簡単ではなく、様々な衰えに恐怖を抱くことにより絶望を感じ、ネガティブな力として影響を与えます。
自我の統合(発達課題)と絶望(心理社会的危機)という葛藤の繰り返しの中で、絶望を乗り越えることができると、英知(得られる力)という力を得て、心穏やかに余生を送ることができるものと考えられます。

まとめ

少々難しいお話となりましたが、私たちが生きていく中で、悩みを乗り越えていくことは大切なプロセスであることを感じていただけたでしょうか。

エリクソンのライフサイクル理論は、様々な分野で重要とされています。
幼児期から青年期までの発達課題は保育や教育の分野で、成人期から老年期までの発達課題はキャリア支援の分野で活用されています。
私はキャリアカウンセラーとして働くステージでの悩みを扱うため、主には「青年期のアイデンティティの確立」、「成人期の親密性」、「壮年期の世代性」を参考にしていますが、その人全体を捉える際には全段階における発達課題を考える必要があります。

中高年のキャリアの相談では、後進を育てる、後進へ継承するといった「世代性」という課題をクリアできていないケースが見受けられます。もちろん、後進(後輩)の人柄、性格、仕事への意識なども影響してくるので一概には言えませんが、いつまでも「自分が主役」、「自分が自分が・・・」の気持ちが抜けないと、人間関係がうまくいかなくなり、まわりに悪い影響を与えてしまうことになります。もしかしたら、「世代性」だけの問題ではなく、それ以前の「親密性」や「アイデンティティの確立」といった発達課題がクリアできていない可能性もあるのかもしれません。

冒頭で「人は他者との関係の中で成長していくもの」と説明しましたが、違う見方をすると「人間関係をうまく築けない人は発達課題をクリアできない可能性がある」ということだと思います。
最終的に「良い人生だった」と思えるためには発達課題をクリアすることが必要で、そのためには葛藤と向き合い乗り越えるプロセスが大切なんだと思います。

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