人生は転機の連続である
全米キャリア開発協会の会長を務めたナンシー・K・シュロスバーグ(1929~)は、人生はさまざまな転機の連続からできていて、その転機を乗り越える努力と工夫を通してキャリアは形成されていくと述べています。
シュロスバーグのいう転機とは、自分の役割や考え方、人間関係を変えてしまうような出来事のことで、例えば、結婚、離婚、出産、病気などといった個人的なこともあれば、転職、失業、昇進、異動、転勤などのような仕事にかかわることも含まれています。
また、転機には次の3つのタイプがあるとされています。
①予測していた転機
例)卒業、就職、結婚など
②予測していなかった転機
例)失業、離婚、病気、人間関係など
③期待していたことが起こらなかった転機
例)昇進できない、就職できないなど
これらの転機によって生じる変化には、プラスに作用する場合と、マイナスに作用する場合があります。
マイナスに作用する影響はできるだけ小さくしたいところですね。
あなたがある出来事を転機として捉えるならば、その転機はどのタイプに該当し、どれくらい重要なことで、どんな方法で、どう対処していくのかを考えていくことになります。
その際に、自分がもっている4つの資源(4S)について点検することをシュロスバーグは提案しています。
ここからは、
・渡辺美枝子先生の著書 2022「新版 キャリアの心理学」第2版第7刷 ナカニシヤ出版
を参考にしながら考えていきたいと思います。
4つの資源を点検する・・・4Sシステムとは
4つの資源(リソース)とは、次の⑴から⑷のそれぞれの頭文字をとって「4S」と呼ばれています。
⑴ Situation:状況
⑵ Self:自己
⑶ Support:支援
⑷ Strategies:戦略
それぞれの資源について点検し、転機を客観的に眺め、対処に使えそうな資源を見つけて行動計画につなげていきます。
⑴ 状況 - Situation –
転機の状況について、以下のようなことを確認していきます。
・きっかけ
・タイミングの良し悪し
・コントロールできる部分はあるか
・役割の変化が起きるか
・いつまで続くか
・過去に同じような経験をしているか
・ストレスの度合いは
・転機をどのように捉えるか
⑵ 自己 - Self –
転機が自分にどう関係しているか、以下のようなことを確認していきます。
・社会的地位、性、年齢、人生段階、健康状態などの個人的特徴
・自分はどうしたいと思っているのか
・自分のスキルや経験を活かせそうか
・仕事やプライベートのバランスをどう考えているか
・変化への対応力はどれくらいあるか
・自分に対する自信はどれくらいか
・人生にどんな意義をもっているか
⑶ 支援 - Support –
転機を乗り越えるにあたり、あなたの力になってくれそうな(支援してくれそうな)人 や もの を確認していきます。
・必要とする支援をしてくれる人
・自分のことを良く思ってくれている人
・精神的な支えになってくれる人
・励ましてくれる人
・情報を提供してくれる人
・知識を得る手段
・経済的支援を望めるか
⑷ 戦略 - Strategies –
転機に対する対処方法について、以下のようなことを確認していきます。
・できる限りの戦略を検討をしたか
・時々は、状況を変化させる行動を取っているか
・時々は、転機の意味を変えるように試みているか
・ストレスを解消するように対応しているか
・柔軟に戦略を選択できると感じているか
4Sを使って整理してみよう!
例)
相談者:35歳、女性、育児休業から復帰して3ヵ月
夫:会社員、営業部課長、40歳、男性
子ども:1歳3ヵ月、保育園に入園
出産育児休業で1年間休んでいたが、子どもが1歳になり保育園に入園できたのをきっかけに職場復帰した。夫は出張や残業が多く、自宅にいる時間が短いため育児には期待できず、育児は相談者が一人でおこなっている状況である。仕事と育児の両立に疲れを感じてきている。夫は次の人事異動で、少し離れた県の営業所の責任者として異動になりそうである。相談者としては、夫に育児や家事を手伝って欲しいと思っているが、現実的には難しそうで悩んでいる。
⑴ Situation:状況
・子どもが1歳になり保育園に入園
・子どもの体調が悪くなると会社を休まないとならない
・休むたびに同僚や部下に申し訳なく思い、罪悪感がある
・小学校に入るまでは今のような状況が続くだろう
・育児はワンオペのため、心身共に疲れが溜まっている
・夫には期待できないので、自分が頑張るしかないと思っている
⑵ Self:自己
・入社して13年目、中堅社員、係長
・仕事にやりがいを感じているので、このまま頑張りたい
・子どもの体調不良で急に休むことは、仕事が滞ってしまうので困っている
・出産育児休業で1年間休んだので、頑張らないといけないと思っている
・初めての子育てなので、慣れていないことが多い
・心配性である
・仕事も育児も両立して、充実した生活を送りたい
・これまで大変なことがあっても、ねばり強く諦めずに乗り越えてきた
⑶ Support:支援
・親は遠くに住んでいるので助けてもらえない
・同僚や部下との関係性は悪くない
・信頼している先輩がいる
・仲の良い友人はいつも味方になってくれる
・雇用に関することは総務部が相談窓口である
・上司とは話す機会が少ない
・これまでも育児休業を利用していた人が数人いる
・共働きで収入面では困っていない
・夫にはもっと育児に関わって欲しい
⑷ Strategies:戦略
・日頃から、同僚や部下とのコミュニケーションを良くしておく
・上司と話す機会を増やしたり、相談しやすい状況にする
・上司、先輩、同僚、部下に助けてもらう
・仕事内容の共有化
・育児休業を取った他の社員の人たちの話を聴いて参考にする
・他に利用できる制度がないか、総務部に相談してみる
・夫の働き方を変えられないか、夫と相談する
・友人に愚痴をこぼすなど、ストレスの発散を心がける
・子どもの成長を前向きに捉える
・有料の支援サービスも検討する
【4Sの点検から見えること】
◆職場復帰した相談者が困っていることは、どんなことでしょう?
①子どもの急な体調不良により休むことで仕事が滞り、会社に迷惑がかかること
②仕事と育児を両立させたいこと、今の仕事にやりがいを感じていて続けたいこと
③家ではひとりで子どもの世話をしていて、心身共に疲れてしまうこと
など
◆相談者のこの悩みの解決に近づいていくために、どんなことを考えていけばいいでしょう?
・育児の負担が相談者に偏っていることについて
→夫の育児への参加
・職場環境について
→同僚や部下との人間関係を良くしておく
→業務を属人化しないようにする
・育児に利用できる会社の支援制度や社会的支援制度について
→利用できる制度は積極的に活用する
・育児に手がかかる期間や子どもの成長について
→成長と共に手がかからなくなることを理解して、期限付きで考える
など
まず、最初に夫とよく話し合ってみることが必要そうですね。
夫の働き方を変えてもらうことが、最も改善の効果がありそうですが、すでに夫婦で納得済みのことでしたら、手をつけることができない領域となってしまいます。
そして、夫の会社が育児にどれくらい理解を示してくれるかも課題としてあります。
次に、子どもの急な体調不良時にどうするかですね。
これは職場での人間関係を良好にしておくことが最優先になりそうです。
そのうえで、看護休暇や時間単位での休暇を利用していくことが必要になるでしょう。
あるいは、フレックスタイム制度やテレワーク制度があれば活用しない手はありません。
そして、自分が休んでも業務が止まらないように、業務内容を共有しておくことも大切ですね。
余談になりますが、社員が長期の休業する場合、その穴埋めを誰かに押しつけてしまうと、押しつけられた人にとっては耐え難い試練になってしまいます。そして、休業した人を恨んでしまうことになり、当事者間の関係性が悪くなる可能性が充分に予想されます。これは会社の責任です。
自分たちで手が足りない部分は、お金を払って解決していく方法も選択肢として検討しましょう。
有料の育児サービスを利用する方法なども考えられます。
誰かの力を借りて乗り越えることも課題解決のひとつの方法ですね。
4Sの点検内容を見ると、他にもまだまだ考えられることがあると思います・・・
自分が今、悩みの渦の中にいる時、この状態が永遠に続くかのように感じてしまうかもしれませんね。
この例は、育児と仕事の両立という悩みで、子どもが小さい時に生じる悩みのようです。
子どもは少しずつ成長し、一般的には手がかからなくなっていくと思われます。
「なんとか小学校低学年くらいまでを乗り切れれば・・・」という考えを前提にすると、夫と力を合わせ乗り越えていくことが可能になるのかも知れませんね。
子育ての問題は、永遠に続く悩みではないことが救いですが、だからこそ、自分たちの未来について見通しをもって行動していくことも大切なことだと感じます。
まとめ
4つの資源(リソース)について点検してみることを考えてみましたが、いかがでしたか?
「そんなこと当たり前のことじゃん!」って感じますよね。
でも、悩んでいる時、人は混乱しています。
あれもこれも考えて、頭の中がぐちゃぐちゃになっています。
そんな時に、
今自分が置かれている状態を冷静に眺めてみる、客観的に捉えてみる、
そして、対処に使えそうな資源を見つけて、検討し、行動してみる、
そんな姿勢が大事なのではないでしょうか。
悩んだ時には、
自分が持っている資源(リソース)や自分が使えそうな資源(リソース)を是非点検してみてください。